<空-sora->
チビから産まれた4匹のうち、この子だけ男の子だった。 産まれてからほんの半年弱、名前の通り空にいってしまった。 男の子だからか、一番勇気があって一番元気だった。 その日も、私が家から外を覗いているのに気付いて、 車道を挟んで向かい側にある家から真っ先に走って来ようとした‥‥。 私はもう家に入りかけていたので、その瞬間は見ていない。 空だけがいないのに気付いたのは、しばらくたってからだった。 道路の端に小さい白いモノが転がっている。 どきん‥‥、自分の心臓が一瞬止まったように感じた。 ほとんど即死で、苦しまなかったと思いたい。 拾いあげて身体を撫でると、小さく鳴いて静かになった。 両手の平の上で息を止めた小さな生き物を大事に連れて帰り、 庭のクチナシの樹の下に埋めた。

あのとき、私が外を覗かなかったら‥‥ 空はきっと今ごろふてくされた顔の雄猫になって、 「あんたもねえ、美少年だったのにねえ、おっさんになっちゃって」 とか言って笑っていただろうなあ。

でも何より心が痛んだのは、「死」がわからないチビ(母)と姉妹たちが、 そのなきがらの周りで遊んでいたこと。
埋められたあと、ずっとチビが空の好きなおもちゃ、蝉をくわえて、 空を呼んで探し回っていたこと。
それから探すのを止めたのだけれど、どこに埋められたか知らないはずなのに、 親子4匹が数日の間、クチナシの側から離れなかったこと。 それまではそこに長居したことなどなかったのに。
もし今度うちの猫として産まれてきたら、 今度はもっと長いこと一緒に暮らそう。ね。
そう思って自分を慰めている。

チビ一家の話に続く(”月”へ)

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